連載【いちがいもんの独り言③】まだ緩い靴を提供するのですか?
メーカーで商品開発を20年、小売を10年以上経験した者として展示会に行くと、メーカーの内情がチョッと垣間見えます。いまだに類似デザインを何点もつくり、あるいは軽い、脱ぎ履きしやすい、柔らかいといったもの、そして極め付けは幅広。これで専門店ルートに力を入れていきますと言われましてもねぇ…。戦略、営業、開発の足並みが揃っていないと感じてしまいます。
お客様のために接客している販売員は、同じことを思っていると思いますよ。「もっと細身を!もっと小さいサイズも!」。 展示会の度にお話するのですが、いつもあまり代わり映えしません。「他でも同じことを言われるのですがね~」と、毎回お茶を濁されます。
ここからはあくまで私感です、毒を吐きます…。量販店が強くなった頃からか、バブルの頃からか、今から思うと何でも簡単に売れた時代。手をかけずに、最少人件費で効率的に靴を販売する方法として、量販の売り手側の都合で考え出されたのが、「ゆったり幅広・軽い・柔らかい・簡単に履ける」でした。
残念なことに、靴文化の無い日本では、この刷り込みが定着してしまいました。そのお陰で、真面目にお客様のために接客してきた靴店がどうなりましたか? そうです、真面目に手をかけて靴を売る店は少数派になりました。さらに外国の健康靴や中敷を売らなければやっていけなくなりました。
日本の女性の足囲は7割程度がD~Eでしょ。それなのに、まだ緩い靴を提供するのですか? フィットして、初めて靴ですよね! しかし、いまだに日本では幅広表示が幅をきかせています。幅広表示にしておけば、ドバッと注文がもらえるということが既に幻想だということにメーカーさんも気づいているはずですが…。
染み付いた習慣を変えるのは難しいのでしょうか。半ば諦めていましたが、やっと最近、少し細めのD表示で21cmから展開する紐靴を大手メーカーさんが出しました。普通の靴です。ダメ出しする点もありますが、当店では売れています。良い兆しです。ただ、小売店が減少してしまったのですから、全体ではとても細々とした販売量のはずです。しかしながら、自信を持って育ててください。靴難民を減らすために!微力ながら応援します!
【松下 誠氏のプロフィール】