連載【トレンドを俯瞰する③-私たちは今、どこに立っているか-】女性(オンナ)がトレンドだ
■生活が変わり市場も商品も変わる
カジュアル化とは、「自由にする」「解放する」こと。
人類は「欲と好奇心」のカジュアル化によって今日の繁栄を得た。
18世紀以降の「近代」とは、モノの豊かさのカジュアル化の時代でした。
1980年代、日本でのカジュアル化はついに飽和点に達し、人々は新しいカジュアル化を求めるようになった。
モノの豊かさよりも個人が自由に生きて消費し、ココロもカラダも解放される、ライフスタイルのカジュアル化です。
このライフスタイルのカジュアル化が本格化するのは2020年頃からだと考えられるが、それまでの平成の30年間はこの歴史の節目の移行期だったことは前に触れた。
ライフスタイルのカジュアル化とは生き方が変わり、考え方も変わることだ。
ラクチンで快適、カンタンでベンリが求められ、市場も商品も大きく変わる。これまで続いてきたものが確実に縮小し、あるいは消滅する。
■カジュアル化が進む女性のライフスタイル
個人のカジュアル化、解放とは個人情報や人権が守られ、差別やいじめがなくなり、世間体も寛大になることです。
セクハラは女性がカジュアル化した証しです。高官や大物政治家がそれに気づいていないことがわかりました。
若い女性のアスリートが組織のボスにモノ申すことなど考えられませんでした。女同志で飲み屋に行く。女一人、めし屋で食事をする。20年前には見られなかった光景です。
生活のカジュアル化で消費者は商品を自由に選んで使い方も自分流になりました。そして80年代に無印良品やセレクトショップという業態が生まれました。
ジーンズもスウェットもトレーナーも、作業やスポーツのためのものでしたが、いつのまにか女性も着るようになりました。ラクチンで快適なものは男も女も年齢も国境も価格も超えて、自由に選んで自分なりに着ているのです。
私はこういう商品を単品カジュアルと呼んでいます。
女性の活躍という世界のトレンドの中で、日本はその遅れが言われますが、女性のライフスタイルは確実にカジュアル化して男をしのいでいます。
■新しい市場をリードする女性がトレンド
2000年の12月、私はクリスマス商戦を見にNYのマンハッタンにいました。そして1週間に防寒用のスポーツウェアの丈の長いダウンのコートを着た女性を何度か見かけました。
私はビッグな単品カジュアルの可能性を直感しました。
それから20年近くたって、日本の冬にウールのオーバーコートを見かけなくなったことに気づきました。
そしてあらためてダウンやダウンをアレンジしたものが大半を占めていることがわかったのです。
しかし、あの丈の長いスポーツのダウンコートは見られません。暖かくて軽く、街の日常にふさわしい生活感があるものです。
こうしたビッグな単品カジュアルの市場が生まれるには、暖かくて軽いという機能をファッションと融合させ広めた女性の役割が求められました。
ライフスタイルのカジュアル化で男性に差をつけた女性が、カジュアル化する市場をリードしているのです。
スポーツシューズからスニーカーへのトレンドが確実に進みます。
【筒井重勝氏のプロフィール】
大学卒業後、出版社勤務を経て広告制作やマーケティングなど、クリエイティブな仕事に携わり、その後タカキューの商品本部長、丸紅・物資部で皮革に関するアドバイザーなどを歴任。この経験を活かし、1971年にジャパン・レザー・ファッション・インフォーメーション・センター、通称JALFIC(ジャルフィック)を設立。2009年からアイコニックスシステムを主宰し、社会学などを通してシューズ業界を新たな側面から見つめ直すという研究に取り組んでいる。