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2021年02月28日

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連載【フィッティングの技法①】造船エンジニア出身の靴木型研究者

「靴が合わないなら自分で作ったらどうだ?君はエンジニアだろう」


2007年当時、私は三井造船株式会社で東京タワーを横に倒したような大型船の建造設備を設計していた。「設計」というとコンピュータとにらめっこして屋内で作業するイメージが強いかもしれないが、仕事内容の半分以上は広大な工場を歩き回り、現場と向き合うこと。命綱なしに高さ10m以上の梯子を昇るような危険な場所にも足を運んでいた。


冒頭の言葉は「足が安全靴の中で動いて不安定で危険だし、すぐに疲れてしまい仕事にならない!」と訴えた時の上司の一言である。職場では、船を作るのに必要な道具は自分で図面を起こして作る文化が浸透していることもあり、上司もエンジニアの心意気を伝えることが趣旨であったのだろうが、その言葉は間違いなく私にとっての靴木型設計のスタートとなった。


当初は、自分の足に合う靴を探そうとした。25歳の大学院出たての若者には分不相応な10万円を超えるブーツを店員さんに選んでもらったし、著名な靴職人へ木型から起こすオーダーメードも試したが、履いて長く歩くごとに違和感を感じていた。いつしか、その正体をどうしても知りたくなり、靴に液体プラスチックを流し込み、靴を破壊してまで型を起こしていた。合わない箇所を削って、履いては検証してまた削る。その繰り返しの日々だった。


結局、現在に至るまで私は靴木型について学校で習ったことはないし、誰にも師事することもなかった。しかしながら、そのことを不利で残念なことだと思ったことはない。むしろ、結果的に足と革に師事することで自由闊達に靴を追求することができたのだと、感謝さえしている。

2015年Japan Leather Awardグランプリ受賞作品

2015年には、Japan Leather Awardでアマチュアとして初めてグランプリを頂いた。部門賞に靴や鞄の名門企業が連なる中、「三井造船株式会社」と靴や革とは関係のない企業名が掲載されていた。靴のフォルムを評価頂いたようだが、実のところ私に美的センスはない。中高の美術の成績は赤点スレスレで、写実画の実習では教師から「抽象画は別の機会にしてくれ」と言われたぐらいだ。


もし、私の靴が美しいと評価されたのであれば、エンジニア生活で叩き込まれた、現場・現物・現実を尊重する姿勢から足と革にとっての心地よさと向き合い、真に機能的な形を突き詰めた結果であったのかもしれない。私自身は、人間は自然で機能的な形を本能的に美しいと思う感性を備えていると信じている。


今も私は一般企業勤務であり、靴業界や革業界とは何らしがらみがない立場から、靴を追求している。次回以降のコラムでは、一般の履き手として、また靴木型の研究者として、「あるべき革靴のフィッティング」を提言していきたい。

【著者プロフィール】

二本真(ふたもと・まこと)。1982年生。2007年から靴に興味を持ち木型製作を始める。2012年にJapan Leather Award アマチュア部門賞。2015年に同グランプリを受賞。2016AW/2017SSの東京コレクションでブランドに靴を提供。2018年にオンライン足計測による革靴とのマッチングサイト「#すごいフィッティング(https://fitting.shoes)を開設、5000人以上の足データを収集し、木型設計に活かしている。Twitter(https://twitter.com/Zin_Ryu)でもZinRyuの名前で積極的な情報発信を行う(フォロワー数4300)。現在も一般企業にサイバーセキュリティの専門家として勤務する傍ら靴木型設計を追求している。

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