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2024年04月29日

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連載【フィッティングの技法⑥】ボールジョイントのフィッティングについて

フィッティングのあるべき状態は「痛みのない足の固定」であり、踵・土踏まず・ボールジョイント周囲の3段構えで構成する。今回は残るボールジョイント周囲の役割と実現するための方法について紹介したい。


役割は2つある。第1の役割は、踵・土踏まず部分で受け止めきれなかった足が前方に流れる力を受け止めること。ボールジョイント周囲全体に対し、左右上下から圧力をかけることで、歩行時に足が靴の中で前方に動くことを防ぐ。これは伝統的な木型設計の範囲でもあり、理解しやすいと思う。


実現するためには、木型のボールジョイント周囲の寸法値を考えていくことになるが、通常の考え方では実際の足のボールジョイント周囲の外形寸法値から、10mm程度の「ころし寸法」を引いて設定する。しかし、人間の足は柔らかくてよく伸び縮みする柔らかい足もあれば固い足もあり、それらを一律に扱うことでフィッティングに問題が生じてしまう。例えば、筆者は足長260mmでボールジョイント周囲が253mmである。柔らかい足質であるため実際にはDウィズが適合するが、JIS規格に照らし合わせればEEウィズ適合であり、このようなケースには対応が難しい。

画像1:ボールジョイント周囲の外形寸法値と締め寸法値

そこで「ころし寸法」ではなく、「締め寸法値」という考え方を提案したい。ここでは画像1に示すとおり、ボールジョイント周囲を計測する際、痛みが走らない範囲で締めて計測する。おそらく通常の外形寸法値から10mm~25mm程度少ない値が出るはずである。そこに3mm程度足した値を、木型のボールジョイント周囲の寸法値として設定する。そうすることで、木型設計において柔らかい足、固い足の双方に対応することができる。


第2の役割は、受け止めきれなかった力を分散し、足にかかるダメージを最小化すること。足が前に動こうとする力がゼロにならなかった場合、足の中で親指と小指に衝撃荷重がかかるが、それぞれの指がライニングにあたる時の応力(単位面積あたりにかかる力)を分散させることで、まったく支障のないレベルまで痛みを抑えることができる。

画像2:足のアウトラインと木型のアウトライン

実現するためには、画像2に示すとおり、木型のボールジョイントからトゥに至るまでの線を、小指の内反角度と親指の外反角度と平行に設定することである。そうすることで、足が靴の中で前方に動いても、親指と小指が靴の形と平行に当たることになり、衝撃荷重が足指全体に分散され、足指の単位面積あたりにかかる力は少なくなる。それが痛みを抑えることに繋がる。


ここで挙げた考え方や値は、私が靴の木型設計で実際にお客様に提供した裏付けもあるが、読者の皆様には、ぜひ計測時に締める強さや、「締め寸法」に足す値を変える、足と木型の角度をあえて差をつけてみるなど、色々と工夫して頂きたい。それが、独自のより良い靴木型設計の一助になれば幸いだ。


次回以降は、アウトソールの平面形状について考えていきたい。

【著者プロフィール】

二本真(ふたもと・まこと)。1982年生。2007年から靴に興味を持ち木型製作を始める。2012年にJapan Leather Award アマチュア部門賞。2015年に同グランプリを受賞。2016AW/2017SSの東京コレクションでブランドに靴を提供。2018年にオンライン足計測による革靴とのマッチングサイト「#すごいフィッティング(https://fitting.shoes)を開設、5000人以上の足データを収集し、木型設計に活かしている。Twitter(https://twitter.com/Zin_Ryu)でもZinRyuの名前で積極的な情報発信を行う(フォロワー数4300)。現在も一般企業にサイバーセキュリティの専門家として勤務する傍ら靴木型設計を追求している。

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