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2024年04月26日

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コラム【フィッティングの技法】第8回:踵をつかむとは?―踵の固定について2

第4回目のコラムにおいて踵の固定について説明したが、今回はその考え方をさらに具体化して紹介したい。


踵が固定されずに抜けることは、歩行時に踵が上がる力に、踵の固定力が負けてしまう現象である。すなわち、踵が抜ける力(歩行時に踵が上がる力)をF0、甲中央から踵方向への力をf1、甲内側から踵方向への力をf2、甲外側から踵方向への力をf3、静摩擦係数をμとした場合、以下の条件が成り立つ場合に踵が靴から抜けないことになる。なお、説明を単純化するためソールの返りや位相を考慮した正規化処理の記載は省略している。


μ(f1 + f2 + f3) > F0


ここでは、μ(f1 + f2 + f3)が踵の固定力となる。ポイントは静摩擦係数「μ」を強めること、さらに甲から踵側にかかる力「(f1 + f2 + f3)」を強めることが踵の固定につながる。前者については至極簡単で踵に接するライニング材を革の床面にするなど足が傷まない程度に摩擦係数を強めることが一つのアプローチとして考えられる。


後者について説明すると、踵が抜けない靴のことを靴好きの間では「踵を掴む」靴と言うが、その「掴む」を紐解けばf2及びf3が踵部の内外に反力f’2,f’3として表れて左右から「掴まれている」と感じるのである。

画像①:甲からかかる力と反力

反力とは文字通り「反対の力」という意味であり、画像①に示すとおり、f’1,f’2,f’3と同等の力が反対方向にf’1,f’2,f’3として靴から足にかかってくる。歩行時は踵が靴から抜けようと天井方向に力が働くが、静摩擦係数とf’1,f’2,f’3の各反力をかけ合わせた力が、抵抗となり抜けようとする力を相殺する。


身近な例で例えれば、空中でコップを手で挟んだ際に落下しないことと同様で、これは手で挟む側面からの力に、手の静止摩擦係数がかけ合わせた力が、コップの落ちる方向の力に抵抗しているため落下しない。


上記で説明したように、踵の固定は反力の組み合わせによって得られるが、どのようにすれば反力を高めることができるのだろうか?

画像②:木型の甲の立ち上がり

アプローチとして2点考えられる。1点目は拇指から踵にかけての絞りを強くし、画像②に示すとおり外側から内側にかけての甲の立ち上がりを急にすること。それぞれについては、木型が実足よりも小さくなるように設計する。そうすることで、木型と実足との差が力となって固定につながる。

画像③:靴の履き口

2点目は画像③に示すとおり、履き口の円が小さくなるよう型紙を設計し、甲を覆う面積を増やすこと。面積が大きいほどに紐で締める力が甲全体に伝わり結果的にf1,f2,f3が強まる。


踵の収まりの良い靴を考える際、踵の幅や形だけではなく甲形状や型紙からアプローチも参考にして頂けたら、筆者として木型設計者冥利に尽きる。

【著者プロフィール】

二本真(ふたもと・まこと)。1982年生。2007年から靴に興味を持ち木型製作を始める。2012年にJapan Leather Award アマチュア部門賞。2015年に同グランプリを受賞。2016AW/2017SSの東京コレクションでブランドに靴を提供。2018年にオンライン足計測による革靴とのマッチングサイト「#すごいフィッティング(https://fitting.shoes)を開設、5000人以上の足データを収集し、木型設計に活かしている。Twitter(https://twitter.com/Zin_Ryu)でもZinRyuの名前で積極的な情報発信を行う(フォロワー数4300)。現在も一般企業にサイバーセキュリティの専門家として勤務する傍ら靴木型設計を追求している。

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