連載【トレンドを俯瞰する⑫-私たちは今、どこに立っているのか-】女性がメガトレンド、その市場が空白になる
■スポーツシューズの限界が見えた
90年代からの30年間は、2020年から本格化する「個人」の優位、生活の自由と解放、すなわちライフスタイルのカジュアル化への移行期であることはこれまでにも触れました。「個人」の優位は、社会性よりも日常生活の快適とラクチンが優先することです。
こうして履物ではスポーツシューズの時代が始まりました。スポーツシューズ以上に快適でラクチンな履物はなかったのです。あっという間に突出した存在になったABCマートの売上げの6割が、ナイキ、アディダスなどのスポーツシューズです。
靴といえば革靴のことではなくなったのです。スポーツシューズはライフスタイルをカジュアル化し大きく変えたのです。 競技のための道具が日常生活の道具になり、スポーツシューズはこうしてスニーカーと呼ばれるようになったのです。
しかしスポーツシューズを拒否したライフスタイルがあったことはこれまでに触れました。本シリーズ⑤、⑩で触れた女性の低いヒールの革靴の流れは、「ラクチンで快適」は求めるがスポーツシューズはいやだ、という女性たちの気持ちの表れです。都心ではパンプスやこうした革靴を履いている女性が多くを占めていることに改めて気づきます。
彼女たちこそ、スニーカー予備軍なのです。女らしくてエレガントなライフスタイルにふさわしいスニーカーを求めているのです。
■女性のメガトレンドが加速する
永い歴史を通じて世の中は男が仕切ってきました。しかし、ライフスタイルのカジュアル化という歴史を画す大きな流れの中で女性のカジュアル化、解放は、その核になる最大のテーマです。
「元始、女性は太陽だった」と平塚らいてうが唱えた20世紀初頭、そして1970年代のウーマンリブ運動を経て、それまで言説に過ぎなかったその流れは、今や生活の課題として女性の関心を集め大きな広がりを見せています。
今年の流行語として取り上げられた#KuTooは、それを象徴しています。
皮肉なことに、オンナの解放とカジュアル化を阻害してきたオトコ社会が今、まさに女性に依存せざるを得なくなっています。生んでほしい、育ててほしい(オトコも手伝うようになったが)、働いてほしい、消費を増やしてほしい(消費の70%は女性経由)。
2020年以降、ライフスタイルのカジュアル化がいよいよ本格化する時代に、女性のパワーは間違いなく加速します。
■企業は創業期を迎えている
この十数年を通じて靴(革、合皮)の業界、とくに婦人靴は体力を大きく失いました。挫折した企業に経営上の大きな手落ちがあったわけではありません。靴といえば革靴ではなくなった、ライフスタイルのカジュアル化という、時代を画した変化についていけなかったのです。
一方、いわゆるゴム系メーカーそしてスポーツ、アウトドア(ウォーキング、登山、フィシングetc.)、ワーキング(作業、仕事)など、用途をもったシューズはスニーカーへの可能性も大きく、高い成長が見えています。
しかし、こうしたシューズはその生い立ちから当然女性市場は念頭にありませんでした。 ほとんどの企業が今もなお、男の市場を優先しています。女性の商品があるとすれば、サイズを小さくしたささやかなものです。
本紙に掲載されるこうした分野の商品情報も、レディスユースがコメントされていることは稀です。女らしいエレガントなライフスタイルを満足させるスニーカーからは大きな隔たりがあります。それでも、モノづくりとしてこれらの企業が最も近いところに位置しています。
女性のトレンドの奔流を目前にして、スポーツシューズをはじめとする企業が女性市場に向けての事業をまさに創業し、大きな市場の空白を満たしてほしいと思います。
【筒井重勝氏のプロフィール】
大学卒業後、出版社勤務を経て広告制作やマーケティングなど、クリエイティブな仕事に携わり、その後タカキューの商品本部長、丸紅・物資部で皮革に関するアドバイザーなどを歴任。この経験を活かし、1971年にジャパン・レザー・ファッション・インフォーメーション・センター、通称JALFIC(ジャルフィック)を設立。2009年からアイコニックスシステムを主宰し、社会学などを通してシューズ業界を新たな側面から見つめ直すという研究に取り組んでいる。