連載【トレンドを俯瞰する⑭-私たちは今、どこに立っているのか-】SUSTAINABILITY(持続可能性)と「ライフスタイルのカジュアル化」は同じトレンド
■真逆のスローガンで始まった歴史的な節目
戦争に負けた1945年、昭和20年8月15日を境に、この国のスローガンがまさに一変したのです。
当時、私は学校も疎開してなくなっていた空襲下の東京に残っていました。国民学校の6年生でした。昨日まで「鬼畜米英」「撃ちてし止まむ」と言っていたのが、これからは「民主主義」に何の抵抗もなく変わったのです。
しかし、昭和6年の満州事変から15年続いた永い戦争の時代を思えば、当然の流れにも思えます。「成長」から「持続可能性」への変化も前回ふれた50年前のローマ・クラブの「成長の限界」で、すでにその兆しはあったのです。
「近代」という物質文明はモノの豊かさの解放、カジュアル化でした。そして「持続可能性」は「近代」が地球と自然から収奪した成長からの解放、カジュアル化と考えられます。正反対のカジュアル化です。
■SUSTAINABILITY(持続可能性)の大きな広がり
SUSTAINABILITYがビッグなトレンドになることで人権、差別、格差、ジェンダーなど「個の優位」の解放、カジュアル化が進みます。
ファッション化社会による高度成長が成熟した1980年代に兆した「個の生活の優位」は、ラクチンで快適というライフスタイルに象徴されて、1990年から2020年の現在まで30年間に広まり定着したのです。シューズではスポーツシューズがこの時代を象徴していることは前にもふれました。
SUSTAINABILITYで企業社会もようやく「個人の生活の優位性」「ライフスタイルのカジュアル化」というトレンドと同じところに立ったのです。2020年はライフスタイルのカジュアル化がさらに加速する節目になります。
■なぜ女性なのか
1970年頃、ウーマンリブと呼ばれている女性解放の運動がありました。田中美津という活動家が書いた「いのちの女たち」は、女性解放の根源とその本質を衝いた名著として、今も胸を打つものがあります。
それから50年。日本の女性の地位は国連の女性差別撤廃委員会からも勧告を受けるほどに低迷を続け、韓国をはじめアジアの国々にも抜かれています。政界や経済界の集まりでも男の顔ばかりというのは異様な光景です。
しかし近年の#MeTooや#KUTOOのムーブメントは、かつての運動や言説と異なり、人々の日常の中で共感をもって広がり、世の中を動かしています。50年の歳月を経て、カジュアル化は確実に進んでいます。
日本の女性は世界一声が高い、と言われています。可愛らしさを売り物にしているからでしょうか。ドイツの女性の声は平均165ヘルツで、社会へ進出して活躍するようになって声が低くなったと云います。世界平均で男は110ヘルツ、女は220ヘルツです。日本の女性の声が低くなることを期待します。人口の減少、働く現役世代の減少。この日本の社会の危機的状況の中で、伝統的男社会も女性に頼らざるを得ません。
SUSTAINABILITYは、ムダをなくし有効な資源の活用こそがテーマです。女性の活躍こそ、この国のSUSTAINABILITY、持続可能性の切り札ではないでしょうか。
それは、男のスポーツシューズが女のライフスタイルによってスニーカーに変わり、新しい市場として成長することに象徴されます。カジュアル化、解放は後戻りすることなく進みます。2020年は「個の生活」レベルでのカジュアル化は、さらに加速します。
【お知らせ】連載「トレンドを俯瞰する」筆者の筒井重勝さんは、2021年2月20日に逝去されました。享年87歳。2018年11月からShoes Post Onlineの前身であるシューズ業界専門紙Shoes Post Weeklyで「トレンドを俯瞰する」の連載をスタートするとともにトレンドセミナーを開催。2020年3月にもセミナーを企画していましたが、コロナ禍で中止となり、その後もwithコロナ時代のシューズトレンドについて連載していただく予定でした。ご冥福をお祈りいたします。(Shoes Post Online編集部)
【筒井重勝氏のプロフィール】
大学卒業後、出版社勤務を経て広告制作やマーケティングなど、クリエイティブな仕事に携わり、その後タカキューの商品本部長、丸紅・物資部で皮革に関するアドバイザーなどを歴任。この経験を活かし、1971年にジャパン・レザー・ファッション・インフォーメーション・センター、通称JALFIC(ジャルフィック)を設立。2009年からアイコニックスシステムを主宰し、社会学などを通してシューズ業界を新たな側面から見つめ直すという研究に取り組んでいる。