連載【トレンドを俯瞰する⑧-私たちは今、どこに立っているか-】歴史は繰り返さないが、韻を踏む
■サイクルを見る、立ち位置を見る
前回触れた「服種の昇格」というカジュアル化は,自然な成り行きが必然的で後戻りしないと言っています。
カジュアル化は直線的に進むのではなく、大きく進む高揚期の後に沈静期があり、山あり谷ありが繰り返され時間をかけて進んでいきます。
そしてそこにサイクル、繰り返しが生まれてきます。
アメリカの投資アドバイザーの第1人者ハワード・マークスの「市場サイクルを極める」(勝率を高める王道の投資哲学)が翻訳されました。400ページを超える大冊です。
株式の相場という奔放でかつ繊細な世界を生きてきた著者が、科学者のような態度で相場のメカニズムを見つめその本質に迫っています。
日本にもかつて兜町に罫線屋と呼ばれ、株式の変動をグラフにして相場を予想する人がいましたが、スケールが違います。
著作は株式市場の変動のサイクルを重視することに終始しています。
サイクルには上昇しピークに達し、やがて下降が始まる形があり、そして再び上昇の機運がみえてきます。
そのサイクルを発見し、今どこに立っているか、その立ち位置が重要なのです。立ち位置しだいで勝敗が大きく分かれると言っています。
そして巻末は「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」といういささか文学的な引用で終わっています。韻を踏むとは、リズムを伴った反復というほどの意味でしょうか。
■30年ごとに新しいサイクル
明治から150年たった今日、その日本の近代はおよそ30年ごとに新しいサイクルを経験し、現在に至ったことが見えてきます。
そこには富国強兵によって国威を限りなく解放し、そのカジュアル化の果てに滅亡に至った30年も含まれます。その動きを見ると…。
▷1870~1900年=明治維新という革命を成し遂げ、大国清国にも勝ち関税自主権の可能性も見えて近代国家としての歩を固めた。
▷1900~1930年=日露戦争に勝利し第1次大戦や大正デモクラシーを経て1等国の地位を得た。
▷1930~1960年=満州事変から太平洋戦争に至る15年戦争の末の敗戦。しかし戦時の国家総動員体制は、1945年の敗戦によって断絶することなく保たれ復興に寄与した。
■新しい時代の姿が見えてくる
1960年から1990年に至る30年、そして1990年から2020年に至る30年、この2つの30年のサイクルを見ることで2021年からの新しい時代の姿が見えてきます。
前者は明治以来近代が求めたモノの豊かさがピークに達し、過剰な消費を創出し、ファッション化社会をつくりました。そしてその後半には市場経済は成熟し、モノあまり社会への流れが色濃く見え始めました。
個人が自由にモノを選び、自分流に使う。それはかつての富国強兵にかわる経済国家の成長と共に人々の豊かさもある、という時代から個人の自由な生活こそが豊かさという大きな変化を意味していました。
モノの豊かさの解放、カジュアル化から個の生活の解放、ライフスタイルのカジュアル化という歴史レベルのトレンドの変化です。
この新しいカジュアル化の流れが本格化するのは2021年以降のことと想定しています。歴史的に見ても時代の大きな節目には30年ほどの移行の歳月を要しています。1990年から2020年までの30年のサイクルがそれにあたります。
【筒井重勝氏のプロフィール】
大学卒業後、出版社勤務を経て広告制作やマーケティングなど、クリエイティブな仕事に携わり、その後タカキューの商品本部長、丸紅・物資部で皮革に関するアドバイザーなどを歴任。この経験を活かし、1971年にジャパン・レザー・ファッション・インフォーメーション・センター、通称JALFIC(ジャルフィック)を設立。2009年からアイコニックスシステムを主宰し、社会学などを通してシューズ業界を新たな側面から見つめ直すという研究に取り組んでいる。