連載【トレンドを俯瞰する⑨-私たちは今、どこに立っているのか-】カジュアル化にはサイクルが存在
1961年から1990年までの30年と、1991年から2020年までの30年、この2つのサイクルを検証して2021年以降のトレンドを予測します。
■カジュアル化はモノの豊かさの解放の総仕上げ
30年のカジュアル化のサイクルは、勢い良く進む前半の高揚期から半ばを過ぎて沈静化すると、広い範囲に深く浸透し普遍化します。こうしたサイクル(周期)が、この60年の間に異なるベクトルで2回起こっています。
1961年から1990年に至る30年は、日本が大きく成長し、やがて成熟を迎えたサイクルです。クニが繁栄し、企業が成長し、個人が豊かになる明治以来の近代の最終段階でした。この30年間に見られたファッション化社会は、ファッションという情報消費による過剰なモノの豊かさの臨界点でした。
1980年頃から、総理府の生活調査でモノよりもユトリのある生活を求める流れが見え始めました。それは、日本の社会が明治以来の近代から次の時代へと変化する予兆でした。モノの豊かさ、クニや企業とともにある経済的な成長よりも個人の自由な生活の方が優位だという、まさにクニと社会と個人のあり方が変わり始めていたのです。
1961年に始まったカジュアル化は、モノの豊かさの解放の総仕上げだったのです。このカジュアル化を象徴した女性のブーツブームがピークに達した70年代後半以降、カジュアル化の勢いは沈静化しパンプスが復活しますが、広く市場に浸透したカジュアル化の流れは市場に定着する新しい商品を生みました。ジュートを使ったウエッジソールのカジュアルシューズです。
日常はヘップサンダル、外出はパンプスしかなかった生活に、ようやくその中間のカジュアルな生活シーンが生まれたのです。
カジュアル化が高揚期からピークに達し、やがて沈静化の段階を迎えますが、カジュアル化の流れは着実に大きく広まって定着します。私は、ブーツブームが頂点に達した70年代中頃から、やがてブームが終わりカジュアル化が定着した80年代までの動きを目撃して、そこにサイクルが存在していることを確信しました。
■「個の優位」を確信する
多摩や千里のニュータウンの変遷からプライバシーの広がりにふれて、私は、人はモノの豊かさが満たされると次には自由な生活、個人の解放を限りなく求めることを知りました。
個の生き方の解放、自由、「ライフスタイルのカジュアル化」の時代になるということです。それは「服種の昇格」で述べたごとく、カジュアル化が人類社会の不可逆性だということです。
個人情報や人権が言われ、セクハラや女性の活動が課題になっていますが、その背景にはこうした「個の優位」の流れがあります。さらに、AIに象徴されるデジタル化社会こそ、まさに個の時代を象徴しています。
しかし、日本の社会が次の時代へと変わっていくには、移行する歳月が求められます。近代がつくりあげたモノの豊かさから個の優位、ライフスタイルのカジュアル化が本格化する2020年頃まで、1991年からの30年のサイクルを移行の段階と位置づけたい。
昔の日本の住いには必ず客間や応接間がありました。今はL=リビングです。世間体や社会性よりも個が優先されます。社会性、ヨソユキ中心の百貨店アパレルが低迷し、日常重視のユニクロが台頭。オーツカ家具からニトリへ。靴といえば革靴という時代からABCマート。すべて1990年代に台頭し急成長した社会性から個への流れです。
個の生活が求める「ラクチンで快適」が、競技用具のスポーツシューズを日常生活のブームにしたのです。しかし2004~2005年頃からそのブームが沈静化すると、30年前のブーツブームのときと同じ動きが見えました。カジュアル化がソフトに普遍化し、広がったのです。スポーツシューズが暫定政権で、それに代わるより個の生活にふさわしい流れが生まれました。
【筒井重勝氏のプロフィール】
大学卒業後、出版社勤務を経て広告制作やマーケティングなど、クリエイティブな仕事に携わり、その後タカキューの商品本部長、丸紅・物資部で皮革に関するアドバイザーなどを歴任。この経験を活かし、1971年にジャパン・レザー・ファッション・インフォーメーション・センター、通称JALFIC(ジャルフィック)を設立。2009年からアイコニックスシステムを主宰し、社会学などを通してシューズ業界を新たな側面から見つめ直すという研究に取り組んでいる。