連載【フィッティングの技法②】あるべき革靴のフィッティング
「指を除き足を靴の中で固定すること。神経が許容できる範囲でしっかりしたテンションを、足への箇所ごとに最適にかけること」
表題に対する私の考えを端的に言えば、このようになる。もちろんそれは、人によって異なっても構わないし、むしろそのほうが自然。ただ大切なことは、あるべき姿を思い描き、それを実現するために自身の技法を追求することにある。
考えを具体化するための1つのポイントを紹介させて頂きたい。「足にフィットする靴の容積は、かならず足より小さい」。過去に検証した結果、それは真実だったと思っている。実際に自分に合う靴の中に水を満たし、計測したことがあった。
具体的なやりかたを紹介しよう。バケツを2つ用意する。1つは自分の足が入るくらいの大きさのAバケツ。もうひとつはそれよりひと回り大きいBバケツ。Bバケツの中にAバケツを入れ、水を溢れるギリギリまで注ぎ、さらに足を入れる。そうすると溢れた水がBバケツに足の容積分入る。

㊧靴の中に水を入れたところ。㊨靴の中の水の重さ(1ml=1g)を秤で計測したところ
計測した結果、私の足の容積781mlに対し、手持ちの靴の中で最も気持ちよくフィットする国内の老舗靴メーカーのオーダーメードで仕立てた手縫い靴は、701ml。そこを起点に、私の足に対しさらに最適化して削った木型の靴は623mlであった。
足と靴木型の容積の差が着圧となり、心地よいテンションを足にかけ固定するための力となる。服は人類が考え出した、外気から身を守るための第2の皮膚であり、フィットする服の容積は体より小さい。さらに、靴下から足を抜いた光景を思い浮かべてみよう。靴下から足が抜けた後、かならず足よりも靴下の容積は小さくなっているのと同様に靴の容積も足より小さいのが自然ではないだろうか。靴は第2の足であるのだから。
と、もっともらしいことを書いたが、あくまで「現時点」での私の考えにしか過ぎない。大切なことはあなたのフィッティングに対する考えを守ることに価値があるのではなく、履き主の足と革素材の最も幸せな関係を創造するのがフィッティングの価値であるということ。フィッティングの技法は、「足」という対象、「革」という対象への観察を徹底し、捉えきることで自然と浮かび上がってくるものだと思っている。
人は自分の専門に対しブレない考えを持つことができると、つい守ろうとするが、それでは手段が目的化したまま成長が限定されてしまい大変にもったいない。3~4年に1度は、考え自体が履き手の足と心にフィットしているか否か?技術がゼロになるかもしれない不安を乗り越え、勇気を持って見直してほしい。そういう意味では、私も紹介した考えを3~4年後には変えている蓋然性は高い。今までも常にそうだったから。
次回は、冒頭の考えを木型の形状に落とし込むには?具体的にどのような点に留意してテンションをかけ、形状を定義していくべきか?その辺について触れたいと思う。
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