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2024年04月27日

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『実は、革ってサステナブル。』――皮革・革製品のサステナビリティを発信する「TLA=Thinking Leather Action(シンキング・レザー・アクション)」が始動3年目で認知度アップ



一般社団法人日本皮革産業連合会(略称:JLIA)は、「皮革・革製品のために動物を殺している」「革製品の製造をやめれば畜産でのCO2排出が減る」といった皮革・革製品に対する誤った情報の誤解を解き、革がエコでサステナブルな素材であるという情報を発信していくプロジェクト「Thinking Leather Action(シンキング・レザー・アクション=略称:TLA)」を2021年度に発足し、「業界内でも正確に説明できない」という現状を踏まえて、2022年度から皮革・革製品関係者への説明会を東京、名古屋、大阪、姫路、豊岡で実施し、合計で約500人が参加した。


そして、2023年度から百貨店を始めとした小売店向け説明会や、一般消費者への情報発信をスタートしている。JLIAでは、消費者に向けて「革製品のためだけに、動物の命をいただくことはありません」「革製品を使うと、脱炭素につながります」「お肉、革製品、化粧品など、動物からいただいた命は、余すことなく活用しています」「革製品は長持ち。だから地球にやさしい」という4つのメッセージに沿って、『実は、革ってサステナブル。』を発信しており、JLIAではリーフレットを2022年度38万部、2023年度は50万部つくって革製品を販売する店頭などへも配布している。


TLAプロジェクトの川北芳弘座長(川善商店代表取締役)は、TLA立ち上げの理由を次のように説明する。「一般消費者は、革がどのようにつくられるのか知らない。そして、『革製品のためだけに動物を殺めるので良くない』『環境負荷も高いし、使わない方が良いのでは…』と思ってしまう。一般消費者だけでなく、皮革・革製品業界の関係者の間でも、しっかりと理解されていない現実があった」


日本最大級の皮革および関連資材のトレードショーで、学生なども入場できる「東京レザーフェア」の2023年5月展では、川北座長による『実は、革ってサステナブル。』をテーマにした特別セミナーが行われ、予想を上回る参加者が集まって会場はほぼ満席状態となった。皮革に対するネガティブな情報が出回る昨今において、「皮革がサステナブルである理由を知りたい!」という業界内外の関心の高さが感じられた。


JLIAが行った20代から60代に対する生活者意識調査によると、約7割が環境問題に関心があり、9割の人が何らかの取り組みを行っていると回答したものの、「皮革が食肉の副産物であることを知らなかった人は62%」など、革に関する誤解があった。その誤解についてTLAでは次のように回答している。


皮革は食肉の副産物であり、革製品のためだけに動物を飼育することはない



例えば牛。世界では3億2000万頭*1がと畜*2されている。そのうち世界で革製品に使われるのは55%で、余った皮は廃棄されている。



また、革製品をつくるために家畜を育てることがないことは、採算面からも明らかである。例えば、国内の成牛の革1頭分(500デシ*3で換算)は、2~5万円程で取り引きされている。その肉用牛1頭の飼育にかかる費用は、83~134万円*4と言われている。


また、私たちが肉を食べ続ける限り皮は出続けるため、革製品を使うのをやめることが、アニマルウェルフェア(動物福祉)・アニマルライツ(動物の権利)などの活動に貢献するという考え方には矛盾が生じる。ただし近年は、アニマルウェルフェアやアニマルライツをきちんと守って育てた動物の肉や革を選び、使うということは、大切な考えとなってきている。



革は、肉を食べた後の本来ならば廃棄される皮を副産物として再利用するというサステナブルな素材で、さらに皮だけでなく血や骨に至るまでが、化粧品や医療用、油脂、コラーゲン、ゼラチン、肥料などに形を変えて余すところなく活用されている。


また、ワニやトカゲ、ヘビ、オーストリッチといったエキゾチックレザーについても、皮だけでなく肉や血液まで活用されている。ワニやトカゲ、ヘビなどの産地では、昔から野生種が貴重なたんぱく源として採られてきた。現在では貴重な収入源ともなり、保護も進んでいる。開発途上国では、その収入が子どもたちの学費にもなっている。ワニなどは、ワシントン条約に基づき、密漁や乱獲が行われないように管理されている。現在では養殖場で多くの皮が生産されるようになり、野生のものは原産国で管理されたうえで捕獲されている。

*1出典:Nothing to Hide:Hide and skin production around the world,World Leather,Vol.33.No.6.p.20(2021) *2食用目的で殺すこと *3革の大きさの単位。1デシは10㎝×10㎝ *4出展:令和2年肉用牛生産費 農林水産省


革を使わないと廃棄物となり、さらにCO2が増える可能性もある



牛のと畜頭数は、日本だけでも年間約100万頭分あり、革靴に換算すると2500万足、ハンドバッグでは769万個分、財布小物では5000万個分*5を廃棄しなくてはならず、焼却や埋め立てのためにより大量のCO2を排出することになる。革を使わない場合には、その代替素材をつくるために、さらにCO2を排出してしまう可能性すらある。

*5出典:農林水産省畜産物流通統計。牛1頭分を500デシとし、シューズは1足20デシ、ハンドバッグは1個65デシ、財布小物は1個10デシで換算


丈夫で長く使える皮革製品は実にサステナブルなアイテム



素材の誕生から製品の廃棄、リサイクルまでの環境評価(ライフサイクルアセスメント)で比較すると、長持ちする皮革製品は、寿命が短かい素材に比べ環境負荷が小さいサステナブルな素材であることがわかる。



植物性由来をうたったヴィーガンレザーなどと呼ばれる革の代替素材は、現状では“つなぎ”に石油系の樹脂を使ったものが多かったり、製品寿命が短かかったり、強度が皮革より劣るものが多数存在する。また、製造時の環境負荷が小さいと言われる素材でも、製品寿命が短かければ環境負荷が大きくなる。



また、世界的な規格のISOや日本のJISにおいても、「革」「レザー」の定義は、「動物の皮」「動物由来のものでなければならない」と記載されている。すでにイタリア、ポルトガル、ブラジルでは、動物由来以外の製品に「レザー」というワードを使うことが法律で禁止されている。



鞣し段階で使われる3価クロムは自然界に存在する無害な物質



革の鞣しに使われるクロムは、塩基性硫酸クロムという3価クロムで、人体に影響のある6価クロムとはまったくの別物。3価クロムを使うと、少量かつ短期間で革を鞣すことができ丈夫で長持ちする。排水設備がきちんとしていれば、環境負荷も少ない。3価クロムは、サプリメントや化粧品の着色料(化粧下地、コンシーラー、洗顔石鹼や洗顔料など)にも使われる安全な薬品で、ハイブランドを始め、世界の皮革の85%に使われている。日本エコレザーやイタリアのエコ認証を始め、世界の皮革業界は3価クロムの使用を認めている。


技術革新で水を節約、排水処理も進化している



皮革を製造する段階での環境整備も進んでいる。イタリアを始めとした世界中の皮革業界では、設備・技術の革新に努め、皮革製造におけるCO2排出量や水の消費量の削減に取り組んでいる。EU等の発表によると、皮革製造における成牛半裁1枚のCO2排出量は8~23.3㎏、水消費量は300ℓ(イタリアでは282.5ℓ)としている。



また、例えば日本の製革工場最大の集積地である兵庫県のタンナーから排出された排水は、皮革排水専用の下水管を通り、専用施設で処理されたあと、さらに兵庫県の一般下水処理場で処理されている。東京都を始めとする各地区の製造現場でも、廃水は厳格に処理されている。



また、革製品のために森を切り開き、動物を育てているという事実もない。ブラジルのアマゾンで違法に広大な放牧地を開拓しているという事実がメディアによって伝えられたが、ブラジル政府は違法伐採ゼロを目指すと表明している。EUではEU域内で販売、もしくは輸出入する皮革を含んだ対象品が森林破壊によって開発された農場で生産されないことの確認・調査を義務付ける規則案に合意。さらに世界の皮革業界では、原材料の調達から生産、廃棄までを追跡できる「トレーサビリティ」が明確な原皮を使うことを推進している。


2024年度以降も百貨店・小売店、消費者に向けてさまざまな施策を行っていく


川北座長は、TLAプロジェクトが立ち上がった2021年からの約3年間で「ESG投資が見直されたり、“皮革は環境負荷が大きい”という誤解を招いたヒグ・インデックスが欧州で機能しなくなるなど、さまざまな変化があった」と話す。ただし、TLAがスタートしてから「正しい情報が伝わるようになってきた」と、その効果については実感しているという。


革製品のなかで手入れして長く使える代表のようなアイテムが革靴であることから、靴業界ではシューズボックス全部にTLAのリーフレットを入れ始めた革靴メーカーも出てきている。また、工房で靴づくりをする職人にとって、リーフレットが革と革製品のサステナビリティを説明するための有効なツールとなっている。


川北座長は「皮革と革製品のサステナビリティについて、店頭を始めとする川下に近い業界の理解・浸透度はまた低いことから、2024年以降は百貨店や革製品を扱う小売店、さらには消費者に向けた施策を打ち出していく」と語る。






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